近代五種のオブスタクルとは?70m・8障害の規格と、日本で走れる2つのコース
「SASUKEが五輪競技になる」というニュースを見て、何の話なのか気になった人向けの記事です。正体は近代五種の第5種目で、長く行われてきた馬術が外れ、代わりに「オブスタクル」という障害物レースが入ります。番組の再現ではなく、国際競技連盟が障害の寸法まで決めた競技です。しかも日本には、その規格どおりのコースが千葉と徳島にあって、一般の人が入場料を払えば走れます。ここでは規格の中身と、実物に触るまでの最短ルートを並べます。
- オブスタクル=近代五種の第5種目。60〜70mに8障害を並べ、2レーンで2人が同時に走る(UIPM規格)
- 馬術は2024年パリが最後。2028年ロサンゼルス五輪からこの種目に入れ替わる
- 「オブスタクル」と呼ばれる競技は1つではない。70m・8障害/OCR100m=100m・12障害/スパルタン=約5kmの3系統がある
- 日本で走れる常設コースは千葉(70m・8障害・一般3,300円〜)と徳島(12障害)の2つ
馬術が消えて障害物レースが入るまで。2022年の総会から2028年ロス五輪まで
近代五種はフェンシング・水泳・馬術・射撃・ランニングの5つで競う種目でした。この構成が見直され、国際近代五種連合(UIPM)は馬術に代わる新種目として障害物レースを検証するため、2022年6月から10月にかけてトルコ・フィリピン・イタリア・ポーランドの4会場でテストイベントを実施しました。その検証を経て、同じ2022年のUIPM総会で新種目として正式に承認されます(UIPM Obstacle Catalogue 序文・2026年9月20日確認)。
翌2023年1月に出たのが、障害の寸法と並べ方をまとめた規格書「UIPM Obstacle Catalogue」です。承認から規格書の公開まで数か月という速さで、競技の形が先に固められました。馬術を実施した最後の五輪は2024年のパリで、2028年ロサンゼルス五輪からはフェンシング・水泳・オブスタクル・レーザーランの4つで争われます。
UIPM公式はこの新種目を「head-to-head Ninja-style race」と表現しています。日本語に直すと「真っ向勝負の忍者型レース」あたりで、2人が横に並んで同時にスタートする形式を指しています。日本の報道が「SASUKEが五輪へ」と書くのはこの見た目からで、実際の運営はテレビ番組とはまったく別の枠組みで動いています。
60〜70mに8障害、2レーンで並走。寸法は変えられないという決まり
UIPMは障害の一覧と寸法を「Obstacle Catalogue」という規格書にまとめています。そこに書かれたコースの骨格は次の一文に集約されます。個人戦でもリレーでも、常に60〜70mの距離に8つの障害を置き、選手は2レーンで競う。コースの形は直線でもカーブでもU字でもV字でもかまいません。
この規格書には、読むと競技の性格が分かる規定があります。国内大会などで柔軟な運営を認める節に、こう書かれています。
出典:UIPM Obstacle Catalogue(January 2023, Version 1.0)1.3節 障害の順番を変えることは認められるが、寸法を変更することは認められない。大会の一貫性と安全性を確保するためである。このカタログに記載のない障害を使うことはできない(2026年9月20日確認)。
規格書の原文はUIPM公式サイトでPDFとして公開されています。つまり並び順は会場ごとに違ってよいが、モンキーバーの高さや壁の高さは世界のどこでも同じということです。番組の障害が毎回リニューアルされるのとは逆の発想で、陸上のハードルの高さが決まっているのと同じ考え方になっています。カタログに載っている障害は14種類あり、大会ではそのうち8つが並びます。ジュニア世界選手権では8つのうち6つをUIPMが固定し、残り2つだけを主催側が選択肢の中から決める仕組みで、カテゴリーA・B・Cの大会では選べる枠の位置そのものが変わります。
寸法が固定されているので、代表的な2つを見れば必要な体の使い方が逆算できます。
| 障害 | 規格書にある寸法 | 通過の条件 |
|---|---|---|
| モンキーバー | バーの最も低い部分が高さ240cm(±5cm)、バー間隔75cm、直径5cm | 手だけで渡る。プラットフォームの間で地面に触れたら不可。すべてのバーを使う義務はない |
| フィニッシュウォール | 高さ350cm、ランプ長350cm、カーブ角90°、幅360cm | 走り上がって上端のプラットフォームに乗る。側面以外はどこを掴んでもよいが、足が頭より上に来てはいけない |
数字にすると生々しくなります。バーの下端が240cmということは、身長170cmの人でも軽くジャンプして届く高さです。75cm間隔を手だけで進み、その先にある3.5mの壁を「登る」のではなく助走で駆け上がる。ジュニア世界選手権の規定では走行面そのものを地上から40cm以上100cm以下の構造物の上に組むと決められていて、少なくともその大会では見た目以上に高さのある競技になります。
1日で3種目を消化して、点数順にレーザーランへ並ぶ
オブスタクルは単独で行われるわけではなく、近代五種の1日のなかに組み込まれています。2025年シーズンから採用されている順番はフェンシング・オブスタクル・水泳・レーザーランで、先の3種目で積んだ得点の順にレーザーラン(射撃とランニングを交互にこなす最終種目)へスタートしていきます。つまりオブスタクルのタイムは、最後のレースで何秒有利な位置から出られるかに変換されます。単独の障害物レースではなく、持ち点を作る種目という位置づけです。
日本での実施も始まっています。2026年のアジア競技大会(愛知・名古屋)では近代五種が愛知県安城市で行われ、オブスタクルは2026年9月17日に実施されました。コースは安城市の運動公園内に組まれた70m・8種類の障害で、不安定に動くモンキーバーや高い壁を越えていく様子に観客から声が上がったと共同通信が伝えています。同じ9月17日の女子個人準決勝では内田美咲・矢野翠芳・鈴木悠理(いずれも自衛隊)と齊藤あゆむ(マイナビ)が決勝へ進み、決勝は9月20日に組まれました。
見る側にとっては、勝敗の分かりやすさが際立ちます。2人が並んで走り、先にブザーを押した方が速い。そのブザーはフィニッシュウォール上部のプラットフォームの最後の50cm以内に設置すると規格書で決められていて、決着がつく場所まで規格の一部になっています。
「オブスタクル」で指しているものが3つある。距離と障害数で見分ける
ここが混乱しやすいところです。日本語で「オブスタクル」「障害物レース」と呼ばれているものには系統が3つあり、必要な体力がまったく違います。
| 系統 | 距離と障害数 | 勝ち方 |
|---|---|---|
| UIPMオブスタクル(近代五種・五輪種目) | 60〜70m・8障害 | 数十秒の全力。パワーと正確さで1本のタイムを削る |
| OCR100m(日本選手権などの単独競技) | 100m・12障害 | 1分前後の全力。UIPMより障害が多く、握りの種類も増える |
| スパルタンレース(民間の屋外レース) | 約5km・障害20個前後(Sprint) | 完走前提の持久走。泥と坂と運搬が入る |
同じ「障害物」でも、70mを全力で駆け抜ける競技と、5kmを走りながら20個をこなす競技は別物です。役割の違いで言えば、本記事が扱うのは国際競技連盟が寸法まで固定した短距離の五輪種目で、スパルタンレースとは?初心者向けは約5km・障害20個のSprintが扱うのは約5km・障害20個の民間の長距離レースです。走る前に体を作る順番も、前者は爆発力と握力、後者は走れる脚と肩の持久力から入ることになります。
そしてテレビ番組のSASUKEに出るには?4つの出場ルートと、腕立て伏せ100回に届く体の作り方は、そもそも競技ではなく番組への応募の話です。こちらはTBSの番組に出るための応募ルートと審査の体づくりを扱っていて、参加するには書類と一次審査を通る必要があります。競技のオブスタクルは、大会にエントリーして参加費を払えば走れます。同じ動きに見えても、出場までの手続きが根本的に違います。
なお2026年8月10日、この整理が制度の側でも一段すっきりしました。第12回FISO総会で出席メンバーの96.2%が賛成し、それまで世界のOCRを統括していたFISO(World Obstacle)が解散して、UIPMがオブスタクルスポーツを統括する唯一の国際競技団体になりました。リムリック(アイルランド)で行われた2026 OCR世界選手権が、World Obstacle名義で運営された最後の大会です(UIPM公式・2026年9月20日確認)。短距離の五輪種目とOCRが同じ屋根の下に入ったので、今後は両方の距離を行き来する選手が増えていくとみられます。
日本で走れる常設コースは2つ。どちらに行くかは出たい大会で決まる
体験できる場所は限られていますが、ゼロではありません。規格のはっきりしたコースが2つあり、どちらも一般の人が入れます。
| 施設 | 規格 | 一般利用の目安 |
|---|---|---|
| リソルの森 メディカルトレーニングセンター(千葉県長柄町) | 70m・8障害/屋内/日本近代五種協会公認 | 入浴付き3,300円、施設1日利用付き5,500円、月会員12,100円 |
| JOSA公認 オブスタクルスポーツ吉野川コース(徳島県吉野川市) | 12障害/OCR100m日本選手権の会場 | 料金は施設に要問い合わせ(090-2780-2013) |
千葉・リソルの森 メディカルトレーニングセンター
国内初の近代五種オブスタクルコースとして2025年1月26日にオープンした施設です。MTCの3階にある屋内トラック上に70m・8障害が組まれていて、モンキーバーや3.5mのカーブしたフィニッシュウォールが含まれます。日本近代五種協会の公認コースなので、五輪で使われるものと同じ規格に触れられる場所ということになります。
料金は宿泊者とMTC会員が無料、一般は入浴付きで3,300円、MTCの施設を1日使える組み合わせが5,500円です。オブスタクルコースの月会員は12,100円、スポーツチームや法人の貸切は1時間22,000円という設定になっています。身長140cm以上から利用できるので、小学校高学年くらいから親子で入れます。
徳島・JOSA公認 オブスタクルスポーツ吉野川コース
日本オブスタクルスポーツ協会(JOSA)が「国際基準に則った日本初のコース」と紹介している施設で、12の障害を備えています。日本選手権やワールドシリーズの公式会場になっていて、第3回OCR100m日本選手権は2026年9月26日にここで行われます。参加費13,200円(傷害保険込み)、定員120名で、区分はYouth(10〜15歳)、Junior(16〜19歳)、Senior(20〜39歳)、Masters(40歳以上)の4つを男女別に分けた形です。
置かれている12障害は、ジャイアントステップ、モンキーバー、1.5mウォール、バランスビーム、ホイール、2mウォール、アイランドホップ、リングス、ネットクロール、クリフハンガー、ターザンスイング、フィニッシュウォール。UIPMのカタログと名前が重なるものが多く、そこに握力勝負のクリフハンガーやリングスが足されている構成です。利用料金や予約方法はJOSAの施設ページに載っていないので、行く前に施設へ直接確認してください。
行き先の選び方は単純です。近代五種や五輪の規格をそのまま体験したいなら千葉、OCR100mの大会に出ることを見据えるなら徳島。障害の数が8と12で違うので、大会に合わせて選んだ方が練習が無駄になりません。
モンキーバーは無い大会もある。必ず最後に来るのは3.5mの壁
映像で目立つのはモンキーバーですが、規格書の構成表を見ると事情が違って見えてきます。モンキーバーは主催側が選ぶ枠に入っている障害で、大会によってはコースに存在しません。一方でフィニッシュウォールは、ジュニア世界選手権でもカテゴリーA・B・Cの大会でも8番目に固定されていて、必ず最後に立ちはだかります。走り切った状態で3.5mを駆け上がる場面は、どの会場でも避けられません。
しかも壁の越え方は「側面以外はどこを掴んでもよいが、足が頭より上に来てはいけない」と決められています。よじ登って足を引っかける解き方が封じられているので、必要なのは腕力ではなく助走の勢いと、上端に手が届く一瞬のジャンプになります。ここが本番でいちばん露骨に差が出るところです。関門は、ぶら下がる力・疲れたあとに残っている握力・跳んで掴む動きの3つに散らばっていて、モンキーバーはそのうち1つを担っているに過ぎません。
自分がどこで止まるのかは、家と近所の公園で先に測れます。以下の5つを順にやってみてください。回数と秒数は公的機関が示した基準値ではなく、コースの寸法から逆算した「できる/できないの線」として置いたものです。
| 測ること | 確認できる関門 | ひとまずの線 |
|---|---|---|
| デッドハング(ただぶら下がる) | 体を空中で支えられるか | 30秒切れるなら、まずここから |
| 斜め懸垂 | 引く動作が成立しているか | 連続10回に届かないなら懸垂は先送り |
| 懸垂 | モンキーバーで体を振れるか | 1回も上がらないなら段階を踏む |
| その場ジャンプで手を伸ばし、届いた高さ | フィニッシュウォールの上端を掴めるか | 立って届く高さ+50cmに届くか |
| 30秒ダッシュ直後にもう一度デッドハング | 疲労下で握力が残るか | 最初の半分未満なら握力持久が課題 |
デッドハングは、ぶら下がって足を浮かせるだけの動きです。ここで30秒もたない状態でモンキーバーに挑むと、1本目か2本目で落ちます。逆に言えば、この種目の準備で最初にやるべきことは懸垂ではなくぶら下がりで、自宅にバーがあれば毎日少しずつ伸ばせます。
斜め懸垂は、体を斜めにしてテーブルの縁や低い鉄棒を引く動作です。懸垂が1回もできない段階でも成立するので、引く力の土台づくりに使えます。ここで連続10回に届かない人が懸垂の練習に進んでも、フォームが崩れたまま回数だけ追うことになりがちです。この段階で引っかかったなら、懸垂が0回でもできるようになる5ステップに、ぶら下がりから懸垂1回目までの上げ方が段階ごとに書いてあります。本記事がオブスタクルで最初に止まる場所を特定するのに対し、あちらは引っかかった段階を実際に越えるための手順を扱っています。
最後の項目が見落とされがちです。休んだ状態で握れる力と、走った直後に残っている力は、同じ人でも別の数字として出ます。コースは60〜70mのあいだに8つの障害が詰まった構成なので、モンキーバーもフィニッシュウォールも息が上がった状態で回ってきます。測るなら疲れた側を測らないと本番の数字になりません。ダッシュ直後のデッドハングが極端に短いなら、鍛えるべきは最大握力ではなく握りを保ち続ける側です。
ジムで優先するのはバーベルではなく、体を運ぶ力
やることの優先順位は、種目の性質から決まります。オブスタクルで扱う重量は自分の体重だけで、しかも数十秒で終わります。高重量を数回挙げる力より、自分の体を引き上げて越えて、また走り出せるかが問われます。
優先度が高いのは次の3つです。ぶら下がって引く力、片脚で体を持ち上げる力、そして走りから跳躍への切り替えです。
ステップアップは、台に片足を乗せて体を持ち上げる動きです。地味に見えますが、1.5mや2mの壁に足をかけて越える動作は片脚で体重を押し上げる動きそのもので、両脚で踏むスクワットとは使い方が違います。台の高さは膝くらいから始めて、反動を使わずに上げきれる高さを選んでください。
反対に、優先度を下げてよいのはベンチプレスのような押す種目の高重量です。押す力が要らないわけではありませんが、コースの障害は引く・ぶら下がる・跨ぐで構成されていて、押す動作はほとんど出てきません。時間が限られているなら、懸垂とぶら下がり、そして片脚の動きに時間を回した方が、コースでの結果に直結します。なお、自体重を扱う力と最大挙上重量のあいだにある落差そのものについては、SASUKEの記事で腕立て伏せ100回を例に詳しく扱っています。
まとめ
- オブスタクルは近代五種の第5種目で、馬術と入れ替わる形で2028年ロサンゼルス五輪からの実施が決まっている。承認は2022年のUIPM総会
- コースは60〜70mに8障害、2レーンで並走という規格で固定。障害の順番は変えられるが寸法は変えられない
- 「オブスタクル」には70m・8障害/OCR100m(100m・12障害)/スパルタン(約5km)の3系統がある。距離と障害数で見分ける
- 2026年8月10日にFISOが解散し、UIPMがオブスタクルスポーツを統括する唯一の国際競技団体になった
- 日本で走れる常設コースは千葉(70m・8障害・一般3,300円〜)と徳島(12障害・OCR100m日本選手権の会場)の2つ
- 準備はデッドハングから。走ったあとに握力がどれだけ残るかを測ると、自分の関門が先に分かる
ご注意: オブスタクルは高さのある構造物を越える競技です。転落のリスクがあるため、常設コースでは必ずスタッフの指示と施設のルールに従ってください。千葉のコースは身長140cm以上という利用条件が設けられています。料金・開催日程・利用条件は変更されることがあるので、行く前に各施設の公式情報で確認してください。肩・肘・手首に痛みがある人や、過去にこれらを痛めたことがある人は、ぶら下がる動作を始める前に医師に相談してください。本文の秒数・回数の目安は公的機関の基準ではなく、コースの寸法から逆算した参考値です。
よくある質問(FAQ)
- 近代五種のオブスタクルは、テレビ番組の「SASUKE」と同じものですか?
- 別物です。オブスタクルは国際近代五種連合(UIPM)が寸法まで規格化した競技で、コースは60〜70mに8障害と決まっており、2人が2レーンで同時に走ってタイムを競います。SASUKEはTBSの番組で、審査も課題も番組が決めます。日本の報道で「SASUKEが五輪競技に」と説明されるのは、障害を越えて進むという見た目が似ているためです。
- 馬術は完全になくなったのですか?
- 近代五種の種目からは外れました。2024年パリ五輪が馬術を実施した最後の大会で、2028年ロサンゼルス五輪ではフェンシング・水泳・オブスタクル・レーザーランの構成になります。新種目はUIPMの2022年総会で承認されたもので、2026年のアジア競技大会でもすでに実施されています。
- 一般の人がオブスタクルのコースを走れる場所は日本にありますか?
- あります。千葉県長柄町のリソルの森メディカルトレーニングセンターに、日本近代五種協会公認の70m・8障害コースが2025年1月にオープンしました。入浴付きの一般利用は3,300円です。徳島県吉野川市には12障害のJOSA公認コースがあり、OCR100m日本選手権の会場にもなっています。
- どれくらいの体力があれば走れますか?
- 公的機関が示した基準値はありません。ただコースの骨格から逆算すると、ぶら下がって体を保てること、壁を駆け上がって上端に手が届くこと、疲れた状態でも握力が残っていることの3つが関門になります。千葉のコースは身長140cm以上から利用できる設定なので、まずはぶら下がりと斜め懸垂で自分がどこで止まるかを確かめるところからで十分です。