プレクーリングとは?運動前に深部体温を下げる熱中症対策とやり方

2026年7月30日 公開 / 2026年9月22日 更新
太陽の下でシャーベット状の飲み物を飲む人の線画イラスト。飲み物をボルト色で強調

体温を超えるような猛暑日が珍しくなくなった近年、運動前に体を冷やしておく「プレクーリング」という対策が注目されています。狙いは、走り出す前に深部体温を下げておくことで、体温が危険な域へ届くまでの余白を広げること。冷やす対象は皮膚ではなく体の内側で、代表的なやり方はシャーベット状の飲料(アイススラリー)を飲むことと、手足を冷水に浸すことの2つです。運動後に体を冷やすアイスバスと混同されがちですが、あちらは終わった体を回復させるためのもので、冷やすタイミングも狙いも別物になります。

結論
  • プレクーリング=運動前に体を冷やし、深部体温をあらかじめ下げておく対策
  • 代表的な方法はアイススラリー(シャーベット状飲料)の摂取や、手足を冷水に浸す方法
  • 運動後のアイスバス(回復目的)とは、冷やすタイミングと狙いが違う
  • 猛暑日の屋外トレーニング・大会前のウォームアップ後に取り入れる対策の一つ

プレクーリングとは|運動前に体を冷やす対策

プレクーリングは、暑い環境で運動を始める前に、あらかじめ体を冷やして深部体温を下げておく対策です。運動中は筋肉が熱を生み出し続けるため、開始時点の体温が低いほど、危険な体温域に達するまでの余裕(バッファ)が生まれるという考え方に基づいています。炎天下でのランニング・屋外での部活動・スパルタンレースのような屋外イベントなど、暑熱環境での運動前に取り入れられています。

代表的なプレクーリングの方法

やり方は「体の内側から冷やすか、外側から冷やすか」で分かれます。どこをどう冷やすのか、そのために何が要るのかを並べると、手持ちの道具でできることが見えてきます。

方法どこをどう冷やすか必要なもの
アイススラリー氷の粒が入ったシャーベット状の飲み物で、体の内側から冷やす。氷が溶ける際に体内から熱を奪うため、同じ0℃の氷水より冷却効率が高いとされる専用のアイススラリー飲料
凍らせたペットボトル溶けかけのシャリシャリした状態がアイススラリーに近い口当たりになり、溶けながら冷たいまま飲めるスポーツドリンクや麦茶を前夜に凍らせておく
手足の冷水浴血管が集まっている手のひらや足の裏を冷水に浸けて、効率よく熱を逃がす洗面器と冷水
冷却タオル・保冷剤首元や体幹を外側から冷やす。首・脇の下・そけい部など血管が皮膚に近い部位が狙い目冷却タオル、保冷剤ベスト、保冷剤を巻いたタオル
冷水シャワー出発前に手足やうなじだけでも浴びて、体表から冷やす自宅のシャワー

買わないと始められないのは1つ目のアイススラリーだけで、残る4つは家にあるもので今日から試せます。いちばん手軽なのは冷却タオルや保冷剤で外側から冷やす方法です。

日本スポーツ協会の『スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック』は、改訂にあたって「身体冷却」の項目を加え、冷却方法・タイミング・冷却時間の3つの組み合わせで得られる効果が変わると説明しています。そのうえでアイススラリーの摂取を、皮膚や筋肉の温度を大きく下げずに体の内部を冷やせる方法として挙げ、スポーツドリンクで作れば水分・電解質・糖質も同時に補えるとしています(2026年9月22日確認)。摂取量ややり方の細かな目安は情報源によって幅があるため、量を厳密に決めつけるより、「暑い日は運動前から冷やす選択肢がある」と知っておくことが実用的です。

家にあるものでできる簡易プレクーリング

専用のアイススラリーを買わなくても、表の2つ目から下はすべて家にあるもので成立します。前の晩にスポーツドリンクや麦茶を凍らせておけば、当日は溶けながら冷たいまま飲めますし、保冷剤を巻いたタオルを首や脇の下に当てるだけでも、出かける前に体温を少し下げておけます。手足やうなじに冷水シャワーを浴びるだけの方法なら、買い足すものは何もありません。

特別な道具をそろえなくても、「出発前に少し体を冷やしておく」という発想があるだけで、選択肢は増えます。

どのタイミングで、どれくらい前から始める?

プレクーリングは、運動の直前だけでなく、ウォーミングアップと並行して行われることが多い対策です。目安として、運動を始める15〜30分ほど前から、水分補給の一環としてアイススラリーや冷たい飲み物を取り入れる、という進め方が紹介されることがあります。ただし気温・運動強度・個人の体格によって適切な量やタイミングは変わるため、数字を絶対視せず、「暑い日はいつもより早めに、少しずつ体を冷やし始める」くらいの感覚で十分です。

運動後の「アイスバス」との違い|混同しやすい2つの冷却

冷却というと、運動後の冷水浴(アイスバス)を思い浮かべる人も多いはずです。ですが、プレクーリングとアイスバスは、冷やすタイミングも狙いも別物です。並べると、共通しているのは「冷やす」という手段だけだと分かります。

見るところプレクーリングアイスバス(冷水浴)
冷やすタイミング運動の前運動の後
狙い深部体温を下げ、熱中症リスクとパフォーマンス低下を防ぐ疲労回復
筋トレとの相性暑い日の運動前の補助として取り入れられる直後に行うと筋肥大の効果を鈍らせるという報告がある

つまり、目的によって使い分けが必要な別々の対策です。運動後の冷却については「冷水浴(アイスバス)の効果と注意点」で詳しく解説しています。

暑さに体を慣らす「暑熱順化」との違い|冷やすのは当日、慣らすのは数日がかり

暑さ対策としてプレクーリングと並んで出てくるのが「暑熱順化」です。環境省の『夏季のイベントにおける熱中症対策ガイドライン2020』は、身体の機能が暑さに適応することを暑熱順化と呼び、暑熱順化ができていると同じ暑さ指数(WBGT)でも熱中症になりにくくなると説明しています。

出典:環境省「夏季のイベントにおける熱中症対策ガイドライン2020」 同ガイドラインは「身体の機能が暑さに適応することを『暑熱順化』と言います」としたうえで、「暑熱環境にさらされて3日目から運動継続時間、5〜6日目には体温、快適感、相対的心拍数が改善するという実験データがあります」と紹介しています。個々人の順化能力には差があるとも書かれています(2026年9月22日確認)。

暑熱順化は数日かけて起きる体側の変化なので、当日の朝から間に合わせることはできません。逆にプレクーリングは、その日その場で打てる手です。梅雨明け直後や、涼しい地域から暑い地域へ移動した直後のように、暑熱順化が追いついていない時期ほどプレクーリングの出番がある、という関係になります。順化を進めたいなら、暑くなる前の時期から軽い運動で汗をかく日をつくっておくほうが近道です。

こんな場面で取り入れやすい

プレクーリングは、毎回の筋トレに必須というより、次のような暑熱環境での運動に向いています。

  • 気温・WBGTが高い日の屋外ランニングやウォーキング
  • 部活動やスポーツの大会・練習試合の前
  • スパルタンレースなど屋外の長時間イベントの前(当日の準備は「スパルタンレース直前ガイド」も参考に)
  • 通勤・通学など、運動前にすでに汗をかいてしまいそうな移動が長い日

逆に、涼しい時間帯の早朝や、空調の効いたジムでのトレーニングでは、プレクーリングの必要性は下がります。「今日は暑くなりそうだ」と分かっている日だけ取り入れる、くらいの使い方で十分です。

室内トレーニングで空調が効いている場合は、まず水分・塩分補給の基本を優先するので十分です。夏場の水分補給の基本は「夏のトレーニングと水分補給」にまとめています。

冷やしすぎと「水分補給はいらない」の落とし穴

  • 「冷やせば冷やすほど良い」 → 冷やしすぎは体を硬くしたり、お腹を冷やすもとに。ほどよく取り入れるのが基本
  • 「プレクーリングをすれば水分補給は不要」 → あくまで補助策。こまめな水分・塩分補給が土台
  • 「アイスバスと同じもの」 → タイミングと目的が違う。運動前後どちらの冷却かを意識する

まとめ

  • プレクーリング=運動前に体を冷やし、深部体温をあらかじめ下げる対策
  • アイススラリー・冷水手足浴・冷却タオルなどが代表的な方法
  • 運動後のアイスバス(回復目的)とは、タイミングも狙いも別物
  • あくまで水分・塩分補給が土台。猛暑日の屋外運動の補助策として取り入れる

当日にどれか1つだけやるなら、前の晩にスポーツドリンクを凍らせておくことです。買い足すものがなく、溶けながら飲めるので、水分・電解質の補給とプレクーリングを1本で済ませられます。冷やすことに気を取られて飲む量が落ちるのがいちばん危ないので、1日にどれだけ水分を取ればいいのかは「1日2リットルの水は必要?」に、飲み水と食事から入る分を分けた目安と、尿の色で足りているかを見る方法が出ています。

ご注意: 前もって体を冷やしておくことは、熱中症を防ぎきる手段ではありません。環境省は、呼びかけや刺激に対する反応がおかしいとき、自力で水分をとれないときは、ためらわず119番通報するよう示しています。反応が鈍っている人に飲ませようとすると水が気道に流れ込むおそれがあるため、この状態では飲ませるのをやめ、涼しい場所へ移して体を冷やしながら救急車を待ちます。冷やす道具の側にも注意があり、消費者庁は、肌に直接あてる冷却シートやネッククーラーはまず短時間だけ使って皮膚に異常が出ないことを確かめてから本格的に使うこと、使う前に破れや穴がないか見ることを呼びかけています。保冷剤やネッククーラーは、つけ外しのたびに同じ場所がねじれて劣化し、そこから中身が漏れ出すこともあります。去年の夏に使ったものをそのまま鞄へ入れる前に、一度見ておいてください。暑い時期に屋外で走ること自体が心配なら、冷やし方を工夫するより先に、その日走ってよいかどうかから相談してください。