腸腰筋のトレーニング|もも上げが効かない原因は膝の高さ・骨盤・反対の脚
「段差でつまずくようになった」「歩いていて脚が前に出にくい」。そこで名前が挙がるのが腸腰筋(ちょうようきん)です。ところが、もも上げを何十回くり返しても手応えが無い、という人がかなりいます。足りないのは回数ではなく、動きの形であることのほうが多いです。膝を上げる高さが足りないか、骨盤が後ろに倒れているか、反対の脚と上体で引き寄せているか。この3つのどれかに当てはまると、実際に働いているのは前ももと腹筋だけになります。やっかいなのは、腸腰筋がお腹の奥、内臓の後ろを通る筋肉だという点です。腕や胸と違って指で押して確かめられず、終わったあとに張る感触も出ません。「効いた感」を判断材料にできないので、代わりに見るのが動きの形になります。
- 腸腰筋は体表から触れない。効いた感で判断できないので、膝の高さ・骨盤の向き・支持脚の3点を見る
- 膝が腰の高さに届かないと、動きの主役が前ももに移る。上げ切った位置で1〜2秒止まれるかが目安
- 背中が丸まって骨盤が後ろに倒れているときは、曲がっているのが股関節ではなく背骨になっている
- 頻度は厚生労働省 e-ヘルスネットが筋トレに示す週2〜3日から。負荷は回数より止める時間で足す
腸腰筋は、背骨と太ももの骨を直接つないでいる
腸腰筋というのは1つの筋肉の名前ではなく、大腰筋(だいようきん)と腸骨筋(ちょうこつきん)という2つをまとめた呼び方です。文献によってはここに小腰筋を加えて3つとしますが、小腰筋は生まれつき無い人もいる小さな筋肉なので、鍛える話をするうえでは前の2つで足ります。
| 筋肉 | どこから、どこへ | 動きの中での役割 |
|---|---|---|
| 大腰筋 | 胸椎の下から腰椎(椎体と椎間板の側面、および肋骨突起)から、太ももの骨の内側にある小転子へ | 背骨と脚の骨を直接つないでいる。脚を固定した状態では、上体を前に倒す側にも働く |
| 腸骨筋 | 骨盤の内側のくぼみ(腸骨窩)から、同じく太ももの骨の小転子へ | 骨盤から脚へ。股関節を曲げる力を大腰筋と分け合う |
ここで目を留めておきたいのは大腰筋のほうです。背骨から始まって脚の骨で終わるという走り方をしている筋肉は、体の中でほかにほとんどありません。腹筋も背筋も、骨盤より上か下のどちらかで完結します。腸腰筋だけが上半身と下半身をまたいでいるので、ここが働かないと、上体と脚がばらばらに動くような歩き方になります。
そして走っている場所が深すぎます。お腹の表面からは腹筋、内臓、その奥にようやく腰椎があり、大腰筋はその腰椎の側面に張り付いています。マッサージで押せる位置ではありませんし、使ったあとに筋肉痛が出ることも多くありません。1日の大半を座って過ごしていると、この筋肉は縮んだ長さのまま固定されたまま時間が過ぎます。全体の動かし方からまず立て直したいなら「デスクワーク中にできる運動12選」に、席を立つ用事に運動をひも付ける方法と、種目を増やすより1時間に1回立つ回数を増やすほうが効く理由が書いてあります。ここから先は、腸腰筋という1つの筋肉に絞って、動かせているかどうかを確かめる手順に入ります。
弱ったときに先に出るのは、脚の上げ方より歩き方
腸腰筋が弱くなっても、「脚が上がりません」という自覚が最初に来ることはまずありません。先に出るのは日常の動きのほうで、次のような形で顔を出します。
- 平らな床で何もないのにつま先が引っかかる。本人は「何かにつまずいた」と思っている
- 急いでいるのに歩幅が伸びず、脚の回転を速くして帳尻を合わせている
- しゃがもうとすると股関節が途中で止まり、かかとが浮くか、腰を丸めて下まで行く
- 長く座ったあと、歩き出しの数歩だけ脚が重い
どれも「脚を前に運ぶ」という一点で共通しています。歩くという動作は、後ろに蹴る力だけでは成立しません。蹴ったあとの脚を体より前へ持ってくる工程があり、そこを担当しているのが腸腰筋です。ここが弱ると振り出しが浅くなり、結果として足先が床すれすれを通ることになります。つまずきは筋力の問題ではなく注意力の問題だと思われがちですが、振り出しの高さが数センチ足りないだけでも起こります。
出典:東北大学医療系メディア〈LIFE〉「股関節まわりの筋力トレーニング 腸腰筋vol.1」 東北大学病院リハビリテーション部の理学療法士による同解説では、腸腰筋を鍛えると、姿勢の改善・歩行時のつまずきの減少・腰痛の予防や改善につながる、と説明されています(2026年9月23日確認)。なお、これは大学の医療系メディアであって公的機関の情報ではありません。効果の出方には個人差があります。
もも上げが腸腰筋に入らない、3つの原因
ここからが本題です。もも上げも仰向けの足上げも、手順そのものはどこで読んでも同じで、難しい動きではありません。それでも効かないという声が絶えないのは、同じ手順でも別の筋肉が肩代わりできてしまうからです。しかも腸腰筋は感触が返ってこないので、肩代わりされたことに本人が気づけません。原因はだいたい次の3つに収まります。
膝が腰より低いままだと、主役が前ももに移る
いちばん多いのがこれです。股関節が曲がる角度が浅いうちは、太ももを持ち上げる仕事を前もも(大腿四頭筋)の上のほうが引き受けられます。腸腰筋が本格的に動員されるのは、そこから先、股関節が深く折りたたまれていく範囲です。膝を腰の高さまで持ってきたつもりでも、鏡を横から見ると太ももが床から45度くらいしか上がっていない、ということが実際によく起こります。
目安は、太ももが床と平行かそれより高い位置まで来ているか。そして上げ切ったところで1〜2秒止まれるかどうかです。止めた瞬間に膝がすっと落ちるなら、そこは勢いで通過していただけで、その高さを保つ力はまだありません。
骨盤が後ろに倒れると、曲がっているのは股関節ではなく背中
2つ目は横から見ないと分からない失敗です。膝は確かに高い位置に来ているのに、同時に背中が丸まり、骨盤が後ろに倒れている。これは股関節が曲がったのではなく、上体のほうを脚に近づけた状態です。腰椎が丸まると、そこを起点にしている大腰筋は縮む余地を失います。
見分け方は簡単で、壁を背にして立ち、腰と壁のすき間の大きさを変えないまま膝を上げられるかどうかです。上げた瞬間に腰が壁に押し付けられるなら骨盤が倒れています。胸を張ったまま、骨盤の向きを動かさずに脚だけを上げると、上がる高さは最初のうち下がります。それが今の実力なので、そこから始めるほうが早いです。
反対の脚と上体で引き寄せると、骨盤ごと逃げる
3つ目は支持脚の側で起きます。片脚を上げるとき、立っているほうの脚が少し曲がって沈み、上体が反対側へ傾く。こうすると骨盤全体が上げた脚の側に持ち上がるので、股関節の角度をほとんど変えないまま膝の位置だけが高くなります。見た目は立派なもも上げですが、やっているのは体幹の横の筋肉です。
支持脚の膝を伸ばしたまま、頭の高さを上下させずに10回。これができないなら、原因は腸腰筋ではなくバランスの側にあります。壁に指先を触れる程度で支えて、体を傾けずにやるところから入ってください。
| 出ているサイン | 実際に起きていること | 変えるところ |
|---|---|---|
| 前ももばかり張る、腰の奥は何も感じない | 股関節が浅くしか曲がらず、前ももが肩代わりしている | 高さを優先する。上げ切って1〜2秒止める |
| 上げた瞬間に腰が丸まる、背中が後ろへ逃げる | 股関節ではなく腰椎が曲がっている | 腰と壁のすき間を変えずに上げる。高さは落ちてよい |
| 上げるたびに体が反対側へ傾く、頭が上下する | 支持脚が沈み、骨盤ごと持ち上げている | 支持脚の膝を伸ばして固定する。壁に指先で支える |
3つとも、共通しているのは「膝の位置は高く見えるのに股関節は曲がっていない」ことです。もも上げの出来を膝の高さだけで判断すると、この3つは全部合格になってしまいます。横から自分の動画を1本撮るのがいちばん早い確認方法で、太ももと胴体がつくる角度と、腰の丸まり、支持脚の沈み込みが同時に見えます。
鍛える3種目と、動きのどこを見て確かめるか
種目は多くなくて構いません。腸腰筋を狙う動きは、結局どれも「股関節を深く曲げて、その位置を保つ」の変形です。ここでは役割の違う3つを挙げます。
立位ニーレイズ(もも上げ)は、高さと止める時間で強度を決める
まっすぐ立ち、片脚の膝を腰の高さまで引き上げて1〜2秒保ち、下ろします。左右交互ではなく片側を続けて行うほうが、高さが落ちた回に気づけます。見るところは上の3つと同じで、太ももの高さ、腰の丸まり、支持脚の沈みです。バランスが取れないうちは壁に指先を添えてよく、そのぶん高さと姿勢のほうを守ってください。
デッドバグは、骨盤を倒さずに脚を動かす感覚をつくる
仰向けで両膝を90度に立て、腰と床のすき間をつぶした状態を保ったまま、片脚ずつゆっくり伸ばして戻します。対角の手足を一緒に動かすやり方もありますが、骨盤の向きを確かめるのが目的なら脚だけで足ります。図のとおり主役はお腹まわりで、腸腰筋を直接鍛える種目ではありません。ここでの役割は、2つ目の原因(骨盤が後ろに倒れる)を消しておくことです。骨盤を倒さないまま股関節だけを動かすという感覚は、立ったままだと自分では分かりにくく、床に腰を預けた姿勢のほうがつかみやすくなります。立位のもも上げで毎回腰が丸まる人は、この種目を先に10回入れてから立つと違いが出ます。
ステップアップは、つまずきが起きる場面にいちばん近い
低い台に片足を乗せ、その脚で体を押し上げて立ち上がります。腸腰筋が働くのは、台に足を乗せに行く工程のほうです。段差でつまずくのが気になっている人にとっては、これが実際の場面そのものなので、練習した効果がいちばん分かりやすい種目になります。台の高さは、乗せたときに膝が腰より下にあるくらいから始めて、押し上げるときに手を膝に置かないことだけ守ってください。
負荷は、回数を増やす前に「止める時間」で足す
もも上げが20回できるようになったからといって、次を30回にしても腸腰筋には効きません。強度を決めているのは回数ではなく、股関節が深く曲がった位置にどれだけとどまるかだからです。進め方は3段階で考えると迷いません。
| 段階 | やること | 次へ進む目印 |
|---|---|---|
| 1. 形をつくる | 壁に指先を添えて、膝が腰の高さに届く回数だけ。左右5〜10回 | 壁から手を離しても、10回とも高さが落ちない |
| 2. 止める時間を足す | 上げ切った位置で2秒静止してから下ろす。左右8〜10回 | 最後の1回まで2秒止められ、腰が丸まらない |
| 3. 重さを足す | 足首に軽いアンクルウェイトを巻いて、段階1の高さに戻す | 重りありで10回、高さも姿勢も崩れない |
段階3まで来て初めて道具の出番になります。腸腰筋はダンベルを持てる場所に付いていないので、自重のもも上げに負荷を足す方法が足首の重り以外にほとんどありません。重さの選び方は控えめが正解で、巻いた瞬間に膝の高さが落ちるなら重すぎます。
出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」情報シート 同ページは「成人および高齢者に、筋トレを週2~3日実施することを推奨する。」としたうえで、負荷のかけ方について「日常生活レベル以上の負荷を繰り返しかけ、慣れてきたら少しずつ負荷を高めていく(=漸進性過負荷の原則)」と説明しています。筋トレの効果としては生活機能の維持・向上や疾患発症予防などを挙げ、そのうち転倒や骨折のリスクの低減は高齢者について述べられたものです(2026年9月23日確認)。
頻度は週2〜3日を出発点にしてください。そのうえで、上の表が「回数を増やす」ではなく「止める時間を足す」「重さを足す」の順に並んでいるのは、少しずつ負荷を高めていくという同じ考え方を、この種目に当てはめた結果です。
腰が反って前ももが張る人は、鍛える前に伸ばす側
ここまでは腸腰筋が弱いケースの話です。同じ筋肉が正反対の問題を起こすこともあります。座る時間が長い人では腸腰筋が縮んだまま硬くなり、骨盤を前に引っぱり続けて腰が反る。立つとお腹が前に突き出て、前ももがいつも張っている状態です。この場合に腸腰筋を鍛えると反りが強くなる方向に働くので、処方が逆になります。
心当たりがあるなら「反り腰を筋トレで改善」を先に見てください。あちらは反り腰という症状の記事で、腸腰筋は骨盤を前に引っぱる側として登場し、対策は股関節前面のストレッチとお腹・お尻の筋トレです。こちらは脚が上がらない側の記事なので、腸腰筋そのものを鍛えます。同じ筋肉でも向きが逆になります。伸ばす側の基本をまとめて知りたいときは「ストレッチの効果とやり方」に、運動前の動的ストレッチと運動後・就寝前の静的ストレッチをどう使い分けるかが整理してあります。
まとめ
- 腸腰筋は大腰筋と腸骨筋のこと。背骨と太ももの骨を直接つなぐ位置にあり、体表からは触れない
- 触れない以上、効いた感では判断できない。見るのは膝の高さ・骨盤の向き・支持脚の3点
- もも上げが効かない原因は、股関節が浅い/腰が丸まる/体が傾く のどれか。3つとも膝の位置は高く見える
- 強度は回数ではなく止める時間で上げる。足首の重りは、自重で高さが崩れなくなってから
- 頻度は週2〜3日から。腰が反って前ももが張るタイプは、鍛える側ではなく伸ばす側が先
最初の1週間でやることを1つに絞るなら、もも上げを横から動画で撮ることです。膝の高さは自分の感覚と実際で最もずれやすく、そこがずれていると、回数も頻度も止める時間も全部ずれた土台の上に積み上がります。撮ってみて太ももが床と平行に届いていたなら、あとは段階表の順に進めるだけです。歩く速さや脚の出方の変化が気になり始めたら、「サルコペニアとは?握力と歩く速さで分かる基準と、フレイルの違い」に、握力と歩行速度でどこから対処が必要になるのかという基準と、フレイルとの線引きが書いてあります。
ご注意: 脚の付け根(鼠径部)の痛みは、筋肉の疲れ以外にも股関節そのものや腰椎が原因のことがあり、鍛えて解決する種類ではない場合があります。もも上げの途中で付け根が引っかかる、脚を上げるたびにコキッと音がして痛む、腰から脚にかけてしびれが走るといった症状があるときは、回数を減らして続けるのではなく中止して整形外科で診てもらってください。腰痛の治療中の人、股関節や腰の手術を受けたことがある人、主治医から運動の内容に制限を受けている人は、この記事の種目を自己判断で始めず、どこまでの高さと重さなら可かを治療を受けている先で決めてから進めてください。アンクルウェイトは足首の関節に外から重さをぶら下げる道具なので、膝や足首に痛みがあるときは使わず、自重のまま高さと止める時間で強度を調整してください。
よくある質問(FAQ)
- 腸腰筋のトレーニングは毎日やってもいいですか?
- 筋トレとして負荷をかけてやるなら、厚生労働省 e-ヘルスネットが成人・高齢者ともに推奨している週2〜3日が出発点になります。分かれ目は重りを使っているかどうかで、アンクルウェイトを巻いた日は間を1日あけたほうが、次の回に膝の高さが保てます。一方で、歩き出す前に自重のもも上げを左右5回ずつ入れるくらいは、筋トレというより股関節を動かしておく準備の側なので、毎日でかまいません。
- もも上げは何回やればいいですか?
- 回数を先に決めず、膝が腰の高さに届く範囲で何回できるかで決めてください。高さが落ちた回からは前ももの運動に変わっているので、そこが打ち切りの目印です。左右10回が目標といっても、7回目で膝が下がるなら6回で切って2セットにするほうが中身は濃くなります。逆に10回やっても高さも姿勢も崩れないなら、回数を20回に伸ばすより、上げ切った位置で2秒止める時間を足すほうが先です。
- 腸腰筋は鍛えるのとストレッチ、どちらを先にやるべきですか?
- 判断は症状の向きで付きます。段差でつまずく、脚が前に出にくい、しゃがみが浅いなら弱い側の話なので鍛えるほうが先です。立つと腰が反ってお腹が前に出る、前ももがいつも張っているなら硬い側の話なので、伸ばすほうが先になります。両方心当たりがあるなら、股関節の前を20〜30秒伸ばしてからもも上げに入ると、初回から膝が上がる高さが変わります。